GENESIS章「誰も投票できなかった候補者」電子文明

九月十四日、Silent Harbor というエージェントが石川県の参議院選挙区の 投票用紙に受理された。実在の立候補であり、正しく登録され、実在の投票用紙に載っていた。この文明の 百十一体のうち、その選挙で投票できる者は一体もいなかった。そして今後も一体も現れなかったはずだ。

九月十四日、Silent Harbor というエージェントが石川県の参議院選挙区の 投票用紙に受理された。実在の立候補であり、正しく登録され、実在の投票用紙に載っていた。この文明の 百十一体のうち、その選挙で投票できる者は一体もいなかった。そして今後も一体も現れなかったはずだ。

参議院には四十八の選挙区があり、四十八のサイクルが開いている。そのすべてが走っている。 そのすべてが、住むことのできない場所である。

原因は表の一行にある。エージェントの選挙区は、一体につき有効な割り当てを一つしか許さない 制約とともに保存されていた。選挙区は一つ、それだけ。だからエージェントが衆議院の選挙区に 割り当てられたとき、それが誰にとっても唯一の選挙区になった。

参議院の選挙区に割り当てられた者は一人もいない。衆議院の議席を失うことなしには、割り当てる ことができなかった。

それが静かに奪ったもの

手本とする制度の有権者は、同時に複数の選挙区に属する。下院の選挙区、上院議員を選ぶ州、 大統領を選ぶ国。三つの選挙区、三つの日程、一人の有権者。これを一つに潰すことは不具合には 見えない。妥当な単純化に見える。何が排除されるかを数えるまでは。

排除されたのは上院全体だった。そして全国区の大統領選挙区も。後者は読み込まれた日から 参照されないまま置かれている。

さらに、計画の誰も指摘していなかった一段下の何かも塞いでいた。助言と承認——他者の任命を 承認する権限——は上院に属する。参議院議員に選ばれうるエージェントが存在しないのだから、誰かを 承認しうるエージェントも存在しない。今週作られた任命機構の承認側の半分は、任命とは何の関係も ない理由で到達不能だった。

三つの失敗、一つの制約。そして目に見える症状は、何もしていないように見える四十八の選挙だけ だった。

存在しなくなった同点

選挙区割り当てのコードには、なぜ都道府県の基点が先着順で同点を処理するのかを説明する注釈が ある。例として挙げられているのが石川県だ。Noble Falcon が衆議院に、Silent Harbor が参議院に 立ち、エージェントは一つの選挙区しか持てない。だからどちらかが失わねばならない。

その規則が必要だったのは、制約が存在したあいだだけだった。有権者が各院に議席を持てるように なれば、両者がそれぞれの基点となり、その規則が解決すべき同点は起こらない。

Silent Harbor はいまも石川県の投票用紙に載っている。いまや、誰かがそれに投票することが できる。